毎日新聞校閲グループ“中の人”「誤字・脱字の多いメディアは信頼を失う」

リアルな「校閲ガール」も多い毎日新聞・校閲グループのアカウント


毎日新聞の校閲記者が運用するアカウント「毎日新聞・校閲グループ(@mainichi_kotoba)」。実際の新聞紙面での誤りを指摘・解説する「校閲ツイート」や「漢字クイズ」などのツイートが人気を呼び、フォロワー数は4万を超える。

昨年はドラマ『地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子』(日本テレビ系)が放送されるなど、その仕事自体に注目が集まっているが、「中の人」はどう感じているのだろうか? 若手社員5~6人とともにアカウントの運用を行う、校閲グループ副部長の大木達也さんに伺った。

 

『リアル校閲ガール』が仕掛けた、校閲グループ初の試み


―― 昨年はドラマが放送されて、校閲の仕事に注目が集まったように思います。ドラマの放送に合わせ、毎日新聞の校閲グループでも女性校閲記者の方が「リアル校閲ガール」としてブログや動画で発信を行っていましたが、反響はいかがでしたか?

「それで一気にフォロワーが増えたわけではありませんが、みなさんに『校閲』という仕事を知っていただくきっかけになったと思います。じつはリアル校閲ガールの企画を始めたのは、うちの女性記者に原作小説のファンがいたからなんです。Twitterでもそのことは発信していたのですが、それを広告関係の社員が見ていてくれて、リアル校閲ガールとコラボしたドラマの紙面広告を出すことにもつながりました。校閲グループとしては初めての試みで、うれしかったですね」

―― ドラマになるくらい「校閲」という仕事自体が脚光を浴びているのはなぜだと思われますか?

「近年は、ウェブをはじめとし、いろいろな媒体でモノを書く人が増えていると思います。書き手が増えたからこそ、『誤りがない、正しい文章を書きたい』という意識を持つ人も増えているのかもしれませんね。また、今までは校閲の仕事がどんなものかあまり知られていなかったのですが、Twitterのようなツールを通じて広く知ってもらえるようになったのかな、と思います。ちなみに、校閲記者への志願者もここ数年で増えているという話を聞いています」

 

プロの校閲者に必要なのは能力よりも「まめさ」


―― 校閲記者の方は“博識”というイメージがあります。やはり、相当な知識量がないと、校閲記者は務まらないのでしょうか?

「もちろん知識は必要ですが、それよりも大事なのは、いちいち物事を確認する“まめさ”だと思います。『本当にこうだろうか?』と疑ってみることが重要ですね」

―― あとは、集中力も問われますよね。長時間、集中を切らさず原稿を読むコツはありますか?

「コツというよりも、心身ともに正常な状態を保つように心がけています。やはり、悩み事や気になっていることがあると読めませんので。ただ、それでもやはり集中しづらい時間帯はあります。そのことを自分で把握しておくことも重要ですね。集中力が途切れがちな時間帯に読んだ原稿は、後でもう一度チェックするようにしています」

―― ちなみに、校閲グループが忙しい時間帯はあるんですか?

「朝刊の作業が始まる16時過ぎから少しずつ忙しくなり、ピークは20~21時くらいですね。朝刊の版が降りる前が最も忙しいです。逆に、夕刊と朝刊の間、14~16時くらいはホッと一息つける時間帯です」

 

「爪痕を残す」はポジティブ? ネガティブ? 時代で変わる言葉の使われ方


―― 言葉の使われ方は時代によって変化します。特にネットでは、さまざまなスラングが生まれたり、従来の日本語も本来とは異なる使い方をされたりすることもしばしばですが、そうした「日本語の乱れ」についてはどうお感じになられますか?

「言葉は時と場合によって使い方も変わってくるもの。ですから、個人的には何でもかんでも目くじらを立てる必要はないと思っていて、ちゃんと伝わればいいと考えています」

―― 記者の方がそうした「新しい言葉」を原稿に使ってきたときはどうしていますか?

「そうした、新しい言葉の取り扱いについては、校閲の中でも意見が分かれます。20代には受け入れられる表現でも、50代には伝わらない場合もある。新聞は読者の年齢層が広いので、世代によっては誤解を招いてしまうような表現は避けています」

記者必携の「用語集」。毎日新聞における「言葉の使い方」のルールが記されている


―― 校閲内で意見が分かれる言葉の使い方って、最近ではどんなものがあるんでしょうか?

「最近『爪痕を残す』という表現を良い意味合いで使うことが増えているようなのですが、『爪痕を残す』というと、災害による被害などネガティブな表現としてとらえる人も多いですよね。これについては校閲内でも見解が分かれました。たとえば、若い記者が書いたスポーツの原稿で、今回は予選落ちした選手について、『次は爪痕を残したい』といった描写があったんです。『インパクトを残したい』という意味かと思ったのですが、40歳くらいの同僚からは『爪痕をこういうふうに使うのは変じゃないか』と指摘が入りました。しかし、20代の記者に聞くと『全く違和感ないです。もがいてひっかいた爪痕を残したいという意味だと思います』と言うんです。意見が割れたということは、誤解を招くということ。どの世代の人も分かるように、表現を変更してもらいました」

―― それだけ真剣に言葉と向き合っていらっしゃるのですね…。一方で、最近のネットニュースなどは誤字・脱字も多く、明らかに校閲が入っていない記事も見受けられます。ただ、重要なのは記事の内容で、言葉の誤用などはあまり気にしないという読者も少なくないのではないかと思いますが、それでもやはり「校閲」は必要なのでしょうか。

「必要だと思います。確かに大事なのは記事の中身かもしれませんが、明らかにおかしな言葉遣いの文章だと、その内容自体も信頼されなくなると思うからです。新聞が誤字・脱字に厳しい理由は、そういう背景もある。やはり、品質を保つためには何らかのチェックが必要になってくるし、その積み重ねによってメディアとしての信頼性が保たれる。そう考えています」

(周東淑子/やじろべえ)

■取材協力
毎日新聞・校閲グループ(@mainichi_kotoba)
https://twitter.com/mainichi_kotoba
毎日新聞
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