徳川美術館“中の人”「軽いノリのツイートを続ける」理由とは?

葵の紋と家康公が並ぶなんとも渋いアカウントだが、語り口はいたって「かろやか」

徳川家康の遺品など、徳川家にまつわる貴重な史料を収蔵・展示している愛知県名古屋市の「徳川美術館」。その公式アカウント「徳川美術館かろやかツイート(@tokubi_nagoya)」が話題だ。重厚な歴史が感じられる美術館のイメージとは裏腹に、軽妙なネタを交えた作品紹介や、話題のハッシュタグに便乗するつぶやきで、地方にある美術館ながらフォロワー数は2万5000を超える(2017年6月16日時点)。

「“自称”徳川美術館の石原さとみ」という「中の人」は、一体どんな“歴女”なのだろうか? 話を聞いた。

■当初は歴史に興味ナシ? それが、いつの間にか「中の人」に

普段は同美術館で事務職に就く「中の人」。2015年8月、アカウントを開設した当初からツイートを担当するが、実は“任命”はされていないという。

「アカウントを開設してみたものの、それまで館内でTwitterを使ったことのある人はゼロ。最初は、若手職員が誰でも書き込める設定にしたのですが、知らないうちに私が担当ということになっていました」

気づけばいつの間にか「中の人」に。最初はSNS特有のコミュニケーションに戸惑い、失敗もあったようだ。

「『石田三成さん』のアカウントが好きでよく見ているのですが、当館所蔵の刀についてツイートされていたことがあったので、ちょっとちょっかいを出しちゃったんです。そしたら『石田三成が徳川美術館に煽られた』と話題になってしまって…。当時は“煽る(あおる)”という言葉が全然わからなくて、辞書を引き直しました」

徳川が石田三成に絡んだとあれば、周囲がざわつくのも必然。当初はそんなSNS特有のノリや空気感もわからなかったのだとか。以後はトラブルを防ぐためにも、ほかのアカウントへの絡みは控え、内容については必ず上長のチェックを受けているそう。

「書きたいことが書けないということは全くありませんが、1週間分をまとめて書いてチェックに回すので、情報に少しタイムラグがあるかもしれません」

そんな中の人、もともとは違う美術館で事務の仕事をしており、徳川美術館に着任した当初は特段歴史に詳しいわけではなかったという。

「最初は、尾張徳川家22代目の館長に会って『おお!徳川さんって本当に生きてるんだ!』と驚くくらいの知識量しかありませんでした(笑)。だから歴史については、館内の学芸員さんに教えてもらったりしながら学んでいます。そういう意味で、お客様により近い立場で発信できると思います」

ちなみに、その後「中の人」の態勢は何度か見直されおり、現在は“第4形態”。学芸員の女性にも加わってもらい2人体制で運営しており、所蔵品の歴史背景や豆知識を教えてくれる「#担当のおすすめ」のツイートは、もう1人のリアル学芸員さんによるものです」とのことだ。

■“かろやかツイート”のヒントは、館内のお客さんのつぶやき

人気バンド「SEKAI NO OWARI」がトレンド入りすれば、自らの美術館を「世界の尾張」と発信してみたり、放送中のドラマにかけたイベント案内をしてみたりと、便乗系のツイートも印象的だが、アカウント開設当初は「徳川美術館のイメージを汚された」というお叱りもあったという。それでも“かろやか”なツイートを続ける理由は?

「館内で、お客様が展示品の感想をお話しされているのをよく耳にするのですが、なかには『こんな稚拙な感想で恥ずかしい』とおっしゃる方がいらっしゃいます。お客様にはそんなことを気にせず、さまざまな感想を語っていただきたいと思い、中の人自らが展示物について『自由』な視点で発信するように心がけているんです。

たとえば、当館では、お椀のふちに小さな人形が付いた『閑人』という焼き物を展示しているのですが、それを見たお客様からよく『こんなこと言ったら怒られそうけど、コップのフチ子さんみたい』という感想をお聞きするんです。それって多分みんな思っているし、とっても面白いので、Twitterでは『徳川のフチ太くん』として紹介させていただきました。他にも、館内の解説文とは異なった観点からの作品紹介をツイートするようにしています」

■刀剣ファンたちに支えられ、1分間で500リツイート

尾張徳川家に代々伝わる贈答品や日用品などが展示されている同美術館。なかでも人気が高いのが、戦国武将たちの“刀剣”コレクションだ。ゲーム『刀剣乱舞』の人気も相まって、最近では若い女性やカップルでの来館も増えているといい、同アカウントも多くの“刀剣ファン”のフォローがあるという。

「昨年2月、当館で人気の刀である『鯰尾』『後藤』『本作長義』『物吉』の4振りを一挙に公開します、というお知らせツイートをしたんです。そしたら『刀剣乱舞』のファンの方々が反応してくれて、ツイート後1分間で500リツイートも! 特に面白いことをつぶやいたわけではないのに、一時期トレンド入りをしてとても驚きました。また、かろやかツイートをネタにして漫画を描いてくださっている漫画家さんもいて、こっそりと楽しんでいます」

そんな「中の人」も、美術館で刀剣を見ているうちにその美しさに魅了された1人。刀の話になると、途端に口調は熱を帯びる。

「刀剣は角度によって見え方が全く違うんです。たとえば切っ先の前に立ってみると緊張感があるし、光の具合によって刃文が浮き上がる瞬間がある。同じ刀剣でも、1本ずつ全く違うので、見比べていると必ず好きなひと振りが見つかると思います。私が好きなのは、織田信長の刀だったという国宝『太刀 銘 長光 津田遠江長光』。刃文がぽわぽわと丸く浮いて見えて、まるでプリズムのよう。最初は国宝とは知らずにただただ眺めていましたが、吸い込まれるような魅力があります」

なお、2017年6月には、同館所蔵の刀「鯰尾藤四郎」と、名古屋港水族館の「ナマズ」をかけたコラボレーション企画を開催。Twitterでも話題になったが、「鯰尾」の人気の理由について水を向けてみると、さらに熱く語り出した。

「鯰尾は、『刀剣乱舞』で擬人化されているので人気が高いですが、その歴史も面白いんです。もともとは薙刀のような長い形の『長巻(ながまき)』として作られた品でしたが、ある時、脇指として短く作り替えられた。当館に展示されているものはほとんど『贈答品』として作られたブランド品の刀で、未使用なのですが、鯰尾だけは織田信長の次男・信雄がこれで家臣を切ったという記録が残っていて、そういう意味でも珍しい刀です。

しかも、信雄の後、豊臣秀吉の息子・秀頼の手に渡り、大坂夏の陣で彼と共に戦火で焼かれたのですが、焼け跡から家康が探し出して、刃をつけ直して代々伝わっています。知れば知るほど、面白い要素が沢山あるんです」

このように、今ではすっかり「歴女」が板についた「中の人」。最後にフォロワーへのメッセージをいただいた。

「徳川美術館の展示品には、『何月何日、誰にもらった』という記録が全て残っていて、いわば江戸時代の『タイムカプセル』のような場所。Twitterで、軽いネタを安心してツイートできるのは、そんなものでは傷つかない歴史の蓄積がこの美術館にあるからです。ツイートを見て少しでもご興味を持ってくださった方が足を運んでいただき、その魅力を感じていただけたなら、こんなに嬉しいことはないですね」

(周東淑子/やじろべえ)

【関連リンク】

・徳川美術館かろやかツイート

・徳川美術館 公式サイト

SNS Twitter 中の人 刀剣